Vol.006 532nm vs 785nm ~ラマンのLASERどっちが有利なの?~

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                 週間分析馬鹿(re)   Vol.006

  分析一筋十三年。分析ヲタクがお送りする、業務中の分析あるあるや面白い装置の紹介等
  描くコーナーです。気軽にしかし、妙なところで役に立つ内容をお送りします。
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          532nm vs 785nm ~ラマンのLASERどっちが有利なの?~

こんにちは、分析ヲタクです。
 
先週末の台風が思った以上に被害が大きくてびっくりしました。
そしてまた台風がいらっしゃるようで。。。
先の台風で地盤が緩んでいるので注意が必要ですね。
 
さて、前置きはこれぐらいにして今回は、珍しく小難しいお話をしたいと思います。
たまには小難しいことも考える分析ヲタクです。
 
ラマンをやっていてよく聞くお話が
「有機物って蛍光でやすいから532nm励起じゃなくて785nm励起でやればいいじゃん。なんでやらないの?」
というお話です。
確かにLASERの波長を長くすれば、分析対象物から発する蛍光から逃げられる可能性が高く、ラマンスペクトルが
得られるかもしれません。しかし、ここで安直に有機物しか測定しないから785nmLASER単発でいいやーと
ラマンを導入すると痛い目にあいます。
 
以下になんで痛い目を逢うのか?その理由を記します。
①ラマン散乱光の強さは入射光の振動数νの4乗に比例する
②CCD検出の検出感度(量子効率)の具合が波長によって違う
 
①は有名な法則で「ニューの4乗則」といわれているものです。
平たく言うと、入射光のLASERの波長が小さいほどラマン散乱光が
よく出てくるというものです
実際によく搭載されているLASERの波長532nm,633nm,785nmで計算してみます。
532nmのときに観測されるラマン散乱光を1とすると
633nmでは0.43倍
785nmでは0.15倍
になってしまいます。4乗則だけでも結構な減少率になるのが分かります。
785nmは1/7程になってしまいます。
 
 
さらにやっかいな問題は②のCCD検出器の感度です。
ラマンで最近使われている検出器のほとんどはCCD検出器です(FT-Ramanは別ですよ)。
このCCD検出器、実は検出波長によって検出感度がかなり異なります。
550nmぐらいをピークに長波長になるにつれて感度が落ちてくるのが一般的です。
 
検出したい波数位置をC-H伸縮振動領域の3000cm-1とします。
これを各波長で励起させると以下のようになります。
532nm励起で3000cm-1のピークは633nm
633nm励起で3000cm-1のピークは781nm
785nm励起で3000cm-1のピークは1026nm
となります。
この各波長のところのCCD検出器の検出感度を読みます。
手元にある一般的なCCD検出器の感度を参考にしてみます。
 

 
532nm励起の3000cm-1のピーク(633nm)のCCD検出器の感度を1とすると
633nm励起の3000cm-1のピーク(781nm)のCCD検出器の感度は0.79になります。
785nm励起の3000cm-1のピーク(1026nm)のCCD検出器の感度を0.11になります。
 
785nm励起のときの検出器感度の落ち込みが目立ちます。
532nm励起の約1/10になってしまいます。
 
 
さらにさらに、実測のラマンスペクトルの感度は①×②になりますので
532nm励起の3000cm-1のピーク(633nm)について、①νの4乗則 × ②CCD検出器の感度 を1とすると
633nm励起の3000cm-1のピーク(781nm)は0.34
785nm励起の3000cm-1のピーク(1026nm)は0.02
になってしまいます。
単純に633nmは532nmの1/3,785nmにいたっては532nmの1/50になってしまいます。
 
以上のことより
785nm励起は蛍光からは逃げられるが、肝心なラマン散乱光が出てこない
可能性があることがわかると思います。
特に微小異物の場合には致命的な程、感度が足りないことがあります。
各社のLASERラマンのメインストリームが532nm励起である理由がここにあると思います。
 
 
難しい話をしすぎて頭から煙が出てきましたので今日はこれぐらいで、、、
以上、分析ヲタクでした。また来週~。