こんにちは。
ブログ初執筆の柴犬をこよなく愛する分析技術者Iです。
アイテスでは今年新たに顕微FT-IRを導入しました(*´ω`*ノノ☆パチパチ
元々顕微FT-IRを所有しており、これまでにもFT-IRを用いた分析に関して紹介しておりましたが、新たに1台導入されたということで、この機会に改めてFT-IRについて紹介させてもらいたいと思います。
分析ブログを読むような分析マニアさんには物足りない内容かもしれませんが、ゆる~くお付き合いいただけると幸いです。
FT-IR(Fourier Transformed InfraRed Spectrometer、フーリエ変換型赤外分光光度計)は試料に赤外光を照射し、透過または反射した光を測定する装置です。
測定後にフーリエ変換と呼ばれる数学的処理を行うため、“フーリエ変換型”と名が付いています。
他には分散型のIRもありますが、主流はフーリエ変換型ということで、IRといえば基本的にはFT-IRを指すようです。
照射した赤外光は試料を構成する分子の振動エネルギーとして吸収されます。
このため、試料を透過または反射した光を測定すれば、どの波長の光がどれぐらい吸収されたかがわかります。
どの波長の光を吸収するかは分子によって決まっているので、得られたIRスペクトルから試料の分子構造、また、既知の物質のスペクトルと比較して何の物質であるかといったことを調べることができます。
・・・などと書くと小難しいですが、実際にFT-IR測定でどんなスペクトルが得られるか見てみましょう。
試料として換毛期の終わりが見えない我が家の柴犬の毛を1本拝借してきました。
これをFT-IR測定すると、
このようなスペクトルが得られました。
横軸は波数、縦軸は吸光度であり、その試料がどの波長の光をどれぐらい吸収したかを示します。
比較として人間の毛髪(提供者 技術営業Hさん)を測定してみると・・・
とてもよく似たスペクトルが得られました!
犬の毛は人間の毛髪と成分が似ているようです。
人の毛髪の主成分はタンパク質であることがわかっているので、犬の毛もタンパク質から成るといえます。
このように、FT-IR測定では既知の物質のスペクトルと比較してどのような物質であるかを調べることが出来ます。
スペクトルで観察されるピークは分子の振動エネルギーの吸収に由来します。
それぞれのピークが何の分子の吸収に当たるのかというと・・・
よく見ると犬の毛と人間の毛髪ではCH2伸縮振動由来のピークに少し違いが見られますね。
隣のCH3伸縮振動のピーク強度を基準とすると、犬の毛は人間の毛髪よりもCH2由来のピーク強度が低いです。
このことから、犬の毛は人間の毛髪と比べてCH2結合から成る物質が少ないと考えられます。
毛髪の構造は3層構造になっており、いちばん外側のキューティクル表面には18-メチルエイコサン酸という脂肪酸が付いているようです。
犬の毛は人間の毛髪と比べてキューティクルの量が少ないようなので、CH2結合由来のピーク強度が低かったのはキューティクル表面の脂肪酸の量の差によるものかもしれないですね。
今回はATR法という試料の表面約数µmだけの情報が得られる手法を用いて毛の外側から測定しているので、断面を作製して測定箇所を変えたりすればまた違う結果が得られるかもしれません。
また、犬の毛といってもトップコートとアンダーコート、ヒゲとでは結果が変わってくるかもしれないので、そういったところを調べるのも面白いかも・・・
何だかこれ以上いくとFT-IR紹介のつもりが犬の話になってしまいそうなので今回はこのあたりにてm(_ _)m