#1 それはとっても熱酸化膜
「おまえさん、ちょいと膜をつけてはくれまいか」
お客様からそのような問い合わせをいただいたとき、この場合の『膜』とはだいたい“熱酸化膜”を指します。それほど熱酸化膜は半導体においてポピュラーな膜種であり、また知れば知るほど奥深い性質を持ち合わせています。今日はこの『熱酸化膜(ねつさんかまく)』の名前だけでも覚えて帰ってください。
熱酸化膜が他の膜種と異なる点は約1,000℃という非常に高温の成膜条件含めいろいろありますが、成膜時にシリコンウェハーの表面上に膜を堆積させるのではなく、シリコンウェハーそのものを反応させて自らを成長させる『成長膜』であるというところが最も特異であり個性的です。具体的には、ケイ素(Si)の結晶であるシリコンウェハーに高温炉のなかで水蒸気(H2O)、もしくは酸素ガス(O2)を加え二酸化ケイ素(SiO2)を形成します。
このSiO2は主に半導体における電気を通さない部分、いわゆる『絶縁層』として用いられることが多いです。

また自らを反応させて成長を行うわけですから、熱酸化膜を成膜したときシリコンウェハーの表面が若干目減りするという特徴もあります。
例えば、熱酸化膜を1,000Åの厚みで成膜を行う場合シリコンウェハーの表面440Å分を用いて反応させる、といった具合です。言い換えると熱酸化膜成膜によってSiは2.27倍の厚みに成長するわけです。

ちなみに熱酸化膜には、成膜をする膜厚が厚ければ厚いほど成長速度が遅くなる、という性質があります。

これは未結合の酸素が未結合のケイ素と反応するために、既に成膜した熱酸化膜の膜中を突き抜けて熱酸化膜とシリコンウェハーの界面にたどり着かないといけない為であり、膜厚が厚くなるほど突き抜けるべき距離が長くなり、到達までに時間を要すからです。

約1.000℃という、あらゆる膜種の中でもトップクラスの高温度条件下で、自らの44%が成膜対象の素材であるシリコンを用いて形成されており、また懸命に膜中をすり抜けて反応する様などを想像すると健気でもあり、なかなか趣のある膜種だと思います。
少し半導体の世界のことを好きになっていただけましたでしょうか。
(つづく)