#1. シリコンとは違うのだよ、シリコンとは
「春らしく、バッサリとイメージチェンジをしたいのだけれど」
お客様からそのようなリクエストをいただいたとき、迷いなく今流行のSiCをお勧めします。半導体の魅力を何倍にも引き出すことができる画期的な素材、SiC。今日はこの『SiC(シリコンカーバイド)』について考えてみたいと思います。
SiC(シリコンカーバイド)はパワー半導体に必要な高耐熱、高耐圧、高放熱といった特性を持ち、バンドギャップはシリコンの約3倍、絶縁破壊電界強度は約10倍、熱伝導率が約3倍とそれぞれ高い値を示します。
因みにバンドギャップとは、『価電子帯』と『伝導帯』とのエネルギー差(ギャップ)のことであり、絶縁破壊電界強度と併せてこの値が大きいほど高温や高い電圧(印加)に耐えることができます。また、熱伝導率は熱の伝わりやすさ(≒逃がしやすさ)であり、こちらもデバイスの耐久性に大きく関わってきます。
つまり高温や高電圧に耐えることができて壊れにくいので、大きな電力(エネルギー)を扱うことができる、という事なのですね。
シリコンが高温の『石英るつぼ』に結晶の種を入れて引き上げるのは有名ですが、SiCはどのようにして作られるのでしょうか。
【シリコンウェハCZ法】
SiCは原料となるSiC粉末をるつぼ内で2,000℃を超える高温で昇華させ、上部にある低温の種結晶を成長(再結晶)させて作製します。
【SiC昇華再結晶法】
理想的な素材と思えるSiCですが、課題もたくさんあります。
SiCが他の化合物材料と比較して、市場の先頭を走っている理由はシリコンに近い特性を持っているためシリコンウェハの半導体設計、設備を流用しやすいためですが、地球上で3番目に硬い物質なのでエッチングや研磨等で技術的に大変な困難が伴います。他にも単結晶シリコンほどの結晶性や清浄度を確立できていない、などの問題もありますが、それ以前に基板そのものが恐ろしく高価であるという事が、市場の拡大における一番の懸念点となっています。ざっくりいうと基板1枚当たりの価格はシリコン1に対しSiC 100くらいのイメージです。
以上の事柄をジオン軍のモビルスーツに例えると、同じサイズ、見た目でも内部の半導体をシリコンからSiCに変更するだけで、ザクとシャア専用ザクくらいの性能差が現れることになります。機体のコストは何倍にもなりますが、当時兵士の数で劣るジオン公国にとっては象徴的な存在として、兵士の士気を維持するうえで有効だったのかもしれませんね。
少し半導体の世界のことを好きになっていただけましたでしょうか。
(つづく)