#3. Asなんて飾りです 偉い人にはわからんのです
「60年代米国のビンテージ物があるって聞いたのだけれど」
お客様からそのようなリクエストをいただいたとき、最高のキメ顔でGaAsを差し出します。 歴史ある半導体の素材として永く親しみを込めて愛されてきたGaAs。今日はこの『GaAs(ガリウムヒ素/ヒ化ガリウム)』について考えてみましょう。
GaAs(ガリウムヒ素)は化合物半導体の一種であり、シリコンに比べて高い電子移動度と飽和電子速度を備えています。
バンドギャップが広く、高い動作周波数で、シリコンデバイスよりもノイズが少なく、高周波デバイスとして多用されています。
また、間接遷移型の半導体であるシリコンとは異なり、GaAsは直接遷移型の半導体で発光させることが可能です。
またGaAsにはいわゆるヒ素(As)が含まれます。ヒ素は強い毒性を持つ金属で、発がん性のリスクは最も危険な『グループ1』に属します。古代の世界史にも暗殺の道具としてたびたび登場することで有名ですが、なぜガリウム(Ga)にあえて危険なヒ素を添加するのでしょう。

ヒ素は地殻中の存在量が多く、またその生産方法も比較的単純です。しかし、純粋なヒ素を製造し取り扱うことは、その毒性や危険性から、特別な施設や手順が必要となり、それによって生産コストが上昇します。
したがって、ヒ素を用いざるを得ない理由はどちらかというとガリウム側にあります。
ガリウム自体は半導体として優れた特性を持っていますが、純粋なガリウム半導体デバイスは現実的ではありません。最大の理由は融点が29.8℃なので、ひとの体温で溶けてしまい、まともな環境で扱うことができないのです。一方、沸点は2403℃と異常に高く、半導体デバイスの製造が非常に困難であることは容易に想像ができます。
したがって、ガリウムに近い結晶格子の構造をもつヒ素を結合させることにより、高速で効率的な電子移動が可能となり、安定した結晶の成長と化合物半導体としての優れた特性を維持しています。
つまりガリウムとヒ素の相性が抜群に良いのですね。


とまあ、いろいろ語りましたが、ご承知の通りGaAsは化合物半導体ではありますがパワー半導体に特別適した素材というわけではありません。もちろんAsも全然「飾り」ではありません。
一年戦争の終盤に、限られた時間と資源で作り上げた最高傑作への大佐の反応が『足は無いのか?』だった場合、それは現場の整備兵も熱くなりますよ。
少し半導体の世界のことを好きになっていただけましたでしょうか。
(つづく)