リチウムイオン電池(LIB)の正極材は電池の電圧やエネルギー密度に関与する重要な構成要素の一つであり、正極材の組成は電池の性能に大きく関与します。今回はICP発光分析による正極材活物質の組成分析を紹介します。
ICP発光分析の原理
ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析
液体試料中に何の元素がどれくらい含まれているかを分析することが出来ます。
誘導結合アルゴンプラズマ中に液体試料を噴霧するとプラズマ炎による原子の励起が起こります。この励起した原子が基底状態に遷移する際に発する光を分光してから検出します。発光の波長は元素固有であるため、得られた発光スペクトルの波長から定性分析、発光の強度から定量分析を行うことが出来ます 。
ICP発光分析によるLIB正極材活物質の組成分析
正極材の活物質には一般式LiNixMnyCozO2(x+y+z=1)で表されるNMC系がよく用いられています。このNMC系の活物質において各元素(Ni、Mn、Co)の比率も電池性能に関わる重要な部分です。
今回はNi、Mn、Coの比率が異なる2種類のNMC系試料を用いてICP発光分析にて組成評価を行いました。
<測定試料>
リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC系)
A: LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2
B: LiNi0.4Mn0.4Co0.2O2
<前処理>
ICP発光分析を行う際は試料を溶液にする必要があるため、試料粉末をビーカーに入れ、塩酸と硝酸(塩酸:硝酸=2:1)を加えて溶解させました。これをメスフラスコに移し、蒸留水を加えてメスアップしてから、分析に適した濃度(0.1~1ppm程度)になるよう希釈した溶液を測定用の試料としました。Ni、Mn、Co各元素における検量線を作成した後、試料の測定を行いました。
<測定結果>
試料
溶液中の各元素濃度(ppm)
含有量(mmol)
組成比(Ni+Mn+Co=1)
Ni
Mn
Co
Ni
Mn
Co
Ni
Mn
Co
A
0.37
0.35
0.38
6.35
6.37
6.50
0.33
0.33
0.34
B
0.49
0.46
0.25
8.41
8.34
4.23
0.40
0.40
0.20
ICP発光分析にて溶液中の各元素濃度(ppm)が得られます。各元素の原子量から含有量(mmol)を求め、Ni+Mn+Co=1としてNi、Mn、Coの組成比を算出したところ、用いた試薬の組成比とほぼ一致しました。
ICP発光分析では金属元素を主とする約70種類の元素の定性・定量分析が可能です。
LIB正極材等の組成分析だけでなく、試料に含まれる添加剤や不純物の定性・定量分析、RoHs指令物質等の定量分析など、様々な分析に適用できます。