有機化合物には同じ元素組成であっても構造が異なる構造異性体を持つものがあります。
フタル酸エステルではベンゼン環上での置換場所が異なるだけで、その化合物の性質は大きく異なります。
似通った構造の化合物を区別して同定するにはNMR分析やGCMS分析が有効です。
溶液1H NMRによるフタル酸ジメチル構造異性体の同定
1H NMRでは積分値からプロトンの個数、ケミカルシフトから官能基など構造の特徴、またカップリングパターンやカップリング定数から周りのプロトンとの位置関係などの情報を得る事が出来ます。
カルボニル基(電子吸引基)に近い位置のプロトンが低磁場シフトしている。
プロトンAとA’、BとB’は構造上等価である為ピークは2本観測され、それぞれオルトカップリング、メタカップリングによりシグナルは4本に分裂している。各ピークの積分値はAA’:BB’=1:1となる。
カルボニル基(電子吸引基)に挟まれたCのプロトンが低磁場に大きくシフトしている。
またCD間でメタカップリングを起こす為C及びDのシグナルは分裂し、そのJCD値は一致している。
Eはメタ位にプロトンを持たない為オルトカップリングのみ観測される。
積分値はC:D:E=1:2:1となる。
カルボニル基(電子吸引基)の影響でFのプロトンは低磁場シフトをしている。
ベンゼン環上の4つのプロトンFは構造上等価である為、カップリングを起こさない。従ってシグナルは分裂せず一本のピーク(シングレットピーク)として観測される。
このように、置換基の位置が異なるだけで得られるスペクトルは大きく異なります。この違いを解析することにより、異性体の区別が可能です。
ただし、構造が複雑になるとピークの重なりやカップリングパターンも複雑になる為、1つの分析手法だけでは同定が難しい場合が出てきます。また、全くの未知化合物である場合には分子量や官能基などの情報が必要です。一般的にはNMR、質量分析、IRなどを組み合わせて解析を行います。