異種材料ではあるが類似分子構造を有する場合、その相溶性や特性の類似により複合製品の開発発展と拡大に
期待が持てます。
しかし、類似であっても落とし穴も存在します。
例えば、線膨張率の違いによりその界面に歪とズレが生じ、剥離に至るケースも少なくありません。
ここでは、主鎖骨格が類似のPET、PENフィルムの線膨張率の違いと、その差異を生むメカニズムを解明した
事例をご紹介いたします。
素材 PET、PENについて
PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)はともにポリエステルであるが、
ユニットを構成するベンゼン環の数に違いがあり、類似分子構造であってもその差が違う特性を生み出します。
PET
PEN
XPS分析(結合状態の比較)
エステル結合酸素元素の状態分析結果を示す。C-OとC=O結合強度比に差が見受けられる。
TMA分析(線膨張率の比較)
分子構造由来のTg(ガラス転移点)、ポリマーコンホメーション、エントロピーS、エンタルピーHの違いが
線膨張率の差に現れる。
PET
PEN
データ解析
・エステル結合部に関し、PETは共鳴酸素の電子吸引により炭素は正帯電するが直結するベンゼン環の電子供与
共鳴にて中和され、エステルσ結合酸素の非共有電子対の供与は弱く、C-O C=O結合の強度に差が生じる。
・一方、PENは、環構造の共役がPETよりも長く安定なため、エステルσ結合酸素の電子供与が正帯電Cを電気的
に中和するため、C-O C=Oの強度に差が生まれない。
・二重結合酸素のアニオン性は、PET、PENともに互角で分子間力の点では差が出にくいが、環状構造部の
van der waals力に差が生じ、環状構造接触面積が小さい点も加わり、ズレと変形はPETに優先的に現れる。
・ポリマーユニット内のエチレン部(CH2-CH2)は自由回転するため、その占有率と環状構造の低立体障害
がポリマー繊維の収縮に寄与し、PETはTg(約80℃)を超えた温度でPENよりもコンホメーションを変え
やすくエントロピーSを大きくする。
・PENは、Tg(約140℃)を境に直線的構造により、ポリマーのズレと変形が生じやすく、グラフ勾配がきつく
なる。