#1 お香の不思議を化学する
こんにちは、分析技術者ブログ担当の技術者Oです。
一部のコアなファンから支持されていました「分析技術者ブログ」を再開することとなりました!
分析・測定・加工など、たくさんの保有装置を駆使しながらみなさまの少しお役に立てるような内容をお送りします。
さて、今回第1部のテーマは『お香』です。
唐突ですがお寺に参拝された時の記憶を、思い出して下さい。
香炉から立ち上るお線香の煙、
懐かしさやほっとするような感覚
このような不思議な感覚になった覚えはありませんでしょうか。
今回はこの『香』をテーマにしておりますので、少しその歴史を振り返ってみたいと思います。

図1)誓願寺 香炉
平安時代の貴族もお香を使っていた
さて、お香はいつから日本に用いられたのかについて、ご存じでしょうか。
それは飛鳥時代までさかのぼります。
奈良時代を経て平安時代になると、貴族達が香料を炭火でくゆらせて、部屋や衣服への「移香」を楽しんでいたとされており、清少納言らの古典においては、『香』の記述が多く拝見されるようです。
実は清少納言にゆかりのあるお寺が京都にある誓願寺と言われています(図2)
その歴史を知ると、先人たちと同じ空間に触れてみたいという気持ちが増し、そこへ参拝することといたしました。
実際にお参りすると、そこで新たな気付きがありましたので、ご説明していきます。

図2)誓願寺
香りの不思議な力に疑問を持ち始める
ここからは誓願寺でお焼香をした時の状況です。
まずはロウソクに火を灯しましょう。
ゆらめく光へ線香を触れさせると、
ドクドク、ドクドクっと、、、
胸の奥から微かな鼓動が響き始めました。
しばらくすると煙がフワフワと漂い、香りが空間へと広がり始めました。
するとどうでしょうか。
さきほどの鼓動がだんだんと穏やかになっていきました。
しばらくこの空間に身を置いていると、フワフワ~と疑問が湧き始めました。
フワフワ~
「数千年以上前から使われているのってすごいやん」
「どゆ仕組みで香りが心身に影響を及ぼすんやろ」
「そもそもこの香りの正体はなんやろか」

図3)お焼香の様子
キラーン ✨
「気体やから、GC-MSで分析できるやん!」
そこに気付いた瞬間、
技術者Oはアイテスの技術をフルに使って、古から受け継がれる『香』文化を探求しようと思うようになりました。
GC-MSとはガスクロマトグラム質量分析装置のことで、詳しい原理をこれからご説明していきますね。

図4)思い出した!GC-MS
GC-MSで試料の正体を調べるまでの4つの工程
GC-MSでどのように気体の正体を調べるのかを見ていきましょう。

①加熱炉に試料を入れて、熱を加えていくと、様々な成分が気体として出てきます(気化)。
この場合ですと成分A~Cですね。
②これらはカラムという特殊な管に入っていきます。成分によってカラムの中を進む速さが異なるので、早く進むものから順番に出ていきます(分離)。
➂出てきた成分は更にバラバラの小さな破片にされ、その質量を検出器で検出します(数値化)。
④成分によってどのような小さな破片になるかが異なるので、得られた数値からデータベース等を使って当てはまる化合物を検索します。
実際のデータを見てみよう
それでは線香を使って分析をしたデータをみていきましょう。


図6はクロマトグラムと言い、検出器に気体成分が順番に入っていった状態をグラフ化しています。
(横軸:時間、縦軸:検出強度)
今回は黄□のピークの詳細をみていきましょう。
図7はマススペクトルと言い、黄□ピークの質量情報がわかります。
(横軸:質量数、縦軸:イオン強度)
これをデータベースで検索すれば、このピークの成分を同定することができるようになります。
この場合ですと最もヒット率か高かったマススペクトルはα-サンタロールでした。(図8)
これは香り成分の一つで、炭素骨格に水酸基が付いた構造であることがわかります。
このような構造持つものがお焼香をすることで、フワフワと空気中へ漂っていくわけですね。
他にもピークが見られるので、次回までに解析を進めていきたいと思います。
それではまたお会いしましょう。