「自律分散型社会の実現、サーキュラ―エコノミー(循環経済)への転換を促進させるため次世代エネルギー技術の進化発展に資する技術、および グリーン社会へのソリューション技術を提供し、社会に貢献する」
当社は、2年半前の8月に、自社ビルを滋賀県大津市栗林町に建設し、これまで野洲市と栗東市の2か所に分散していた事業部門を1か所に統合いたしました。そして今年、創立32年目を迎えます。これもひとえに、長年にわたる皆様からの温かいご支援とご愛顧の賜物と、深く感謝申し上げます。
1.昨年の実績と出来事
昨年、評価・解析・試験の受託サービスでは、下半期においてEV(電気自動車)市場の世界的な減速の影響を受けEV関連の受注にやや陰りが見られましたが、年間を通してパワー半導体関連を中心に、多くのご依頼をいただきました。また、太陽光発電向け検査装置の販売および検査サービス事業では、現行の製品やサービスに対し、予想を上回る受注をいただきました。これは、FIT制度(固定価格買取制度)の終了後も発電設備の建設が続いているほか、長期運用に伴う保守管理の重要性が高まっていることが背景にあると考えられます。加えて、国が普及を推進しているペロブスカイト型太陽電池向けの新しい検査装置についても、既に出荷したものや現在出荷準備を進めているものを含め、多くの引き合いをいただきました。
パソコンおよび電子機器全般に関する修理・保守サービス事業では、文部科学省が推進するGIGAスクール構想(すべての児童生徒に1人1台の端末と高速大容量の通信ネットワークを提供する事業)の普及が進む中、学校関連のパソコンの長期保守契約数が増加しました。産業用パソコンの保守・修理・キッティングサービスも堅調に推移しており、新たに契約した修理業務の拡大に伴い作業スペースが手狭となったため隣接地に新たなワークスペースを確保しました。また、パワー半導体の量産向けテストシステムの設置・立ち上げ、保守・修理のオンサイトサービスも開始いたしました。ウェハサービス事業においては、一昨年に続き特に上半期に旺盛な需要を背景に、多くのご依頼をいただきました。これらにより、会社全体として過去10年間で最高の収益を上げることができました。
その他、社内活動としては、一昨年立ち上げたSDGs推進委員会を中心に、4月に当社のSDGsに関する取り組みを紹介するページを会社のホームページ上に開設し、11月には地域貢献活動の第一歩として、地域の公道にてゴミ拾いと健康増進を兼ねた「ゴミ拾い&ウォーキング」を実施しました。この活動は、SDGsの目標11「住み続けられる街づくり」と目標3「すべての人に健康と福祉を」を念頭に置いたもので、従業員全員が部門を超えた4~5名のチームを組み、近隣エリアを4日間に分けて巡回しました。
2.産業界の動き
現在のテクノロジーの進化には2つの大きな潮流があり、ひとつは高速、高密度、高分解能、高周波数など、とことんハイパフォーマンスを追求する流れであり、もうひとつはハイパフォーマンスを追求する中で生じる地球資源の過剰な消費や不要な廃棄物の発生を抑え、持続可能な社会の実現を目指すテクノロジー開発の動きであると考えています。前者はDX(デジタルトランスフォーメーション)、後者はGX(グリーントランスフォーメーション)という言葉で表現できます。では、この”アクセルを踏む”DXと”ブレーキを踏む”GXは正反対の流れなのでしょうか。そうではありません。DXはGXを必要とし、GXはDXを必要とする関係にあり、互いに密接に絡み合いながら、相互に後押ししているのです。
具体例を挙げましょう。2025年現在、DXの中心と言えば、生成AI(Generative AI)の活用といって間違いないでしょう。この分野で巨額の投資を行っているのは、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)や、さらに2社(TeslaとNVIDIA)を加えた「マグニフィセント・セブン(Magnificent Seven)」と呼ばれる所謂ビッグテック、大手テクノロジー企業です。生成AIを動かすのはAIチップ群であり、その集合体であるデータセンターが必要不可欠です。しかしデータセンターは膨大な電力を消費するため、既設の発電所の電力だけでは賄いきれません。そのため新たなエネルギー源を各社とも再生可能エネルギーや原子力といったグリーンエネルギーに求めることを表明しています。つまり、DXを推進するためにはGXが必要不可欠なのです。一方、GXを代表する例として自動車の電動化、つまり電気自動車(EV)があります。最近、大手自動車メーカーのプロモーションビデオでは、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池車)、BEV(バッテリー電気自動車)といったフルラインアップが紹介されています。しかし昨年から、製造コストに見合わない価格競争や充電インフラの不足、補助金の打ち切りなど、まだ世の中から受け入れられるほどには環境が整備されていない状況から欧州を中心にBEV化へのロードマップは見直されています。その結果、一部を除く自動車メーカーや関連部品メーカーは、BEVへの過度な集中による苦境に直面しており、現在もその状況は続いています。ただ少し長い目で見ればBEV化の流れは変わることはないでしょう。その一方で、HEV、PHEV、FCEV、BEVどれを急ぐかよりも現在、多くの自動車メーカーが注力しているのが、これら4種のEVが共通して目指す姿、SDV(Software Defined Vehicle)の開発です。SDVとは、ソフトウェアを基軸として、ユーザーにモビリティとしての新たな価値や体験を提供するための基盤(エコシステム)を構築するコンセプトを指します。自動車をパソコンに見立てると、ウィンドウズやMac OSのようなプラットフォームを構築しユーザーが自由に使えるようにするイメージです。このSDVのプラットフォームの中核を担う影のエンジンがAIであり、EVというGXを推進する技術を支えているのが最先端のDXであるAIなのです。
このように、現在世の中ではDXとGXが互いに補完し合いながら進化発展しています。しかし、この世界規模で進行する動きに無視できない影響を与えているのが「経済安全保障」という政治的要因です。コロナ禍以降、自国中心主義や世界の分断、経済のブロック化が進み、「経済安全保障」がますます重要視されるようになりました。これによりテクノロジーの進化発展が非効率化し製品やサービス価格が上昇するという課題も生じています。これは今後の大きな政治的課題と言えるでしょう。
3.当社の活動計画
経済安全保障の影響を受けつつ、DXとGXが、相互に補完しながら進化・発展していく中で、当社は以下の分野でその動きに深く関わっています。
・次世代パワー半導体
・最先端半導体関連分野
・ペロブスカイト型太陽電池
・児童・生徒へのPC/タブレット端末配布とネット利用の普及(GIGAスクール構想)
SiCやGaNといった次世代パワー半導体の分野では、先に触れたBEV市場の世界的な減速に伴い、新規量産工場の建設が遅れるケースも報じられていますが、開発スピードを緩めることは決してない、と見ています。また最先端半導体関連分野で当社がまず取り組めるものは、デバイス内部の解析ではなく、そのデバイスを支える先端パッケージング技術であるチップレットの分野における解析・試験・評価です。将来的には最先端デバイス内部の解析分野への参入も目指しています。ペロブスカイト型太陽電池は、折り曲げることができ軽量で建物の壁面にも設置可能な次世代型太陽電池です。この技術を発明したのが日本人である点も見逃せませんが、前述の経済安全保障の主要項目、エネルギー安全保障の観点から日本政府が国策として普及を後押ししている分野です。というのも、ペロブスカイト型太陽電池の主原料であるヨウ素については世界第2位の生産量(約1万トン/年)を誇り、埋蔵量は推計500万トンと世界トップで、安定供給が見込まれるからです。当社は、ペロブスカイト型太陽電池の出荷用検査装置を提供できる数少ないメーカーでもあります。また、GIGAスクール構想がスタートしてから5年が経過し、全国的に端末が普及しました。しかし、第2期「NEXT GIGA」に入った現在では、学校現場におけるICT人材の不足、ネット環境やシステム環境の地域差などの問題と併せて、端末の故障の増加やバッテリの劣化による維持管理費の増加といった課題が浮上しています。このような状況において、当社の修理・保守サービスが求められる商機があると考えています。
以上を踏まえて、当社では今年度の重点的な取り組みとして以下のことを計画しています。
事業活動
・半導体解析装置の最新鋭機器の導入とそれを活用した新しい解析手法の構築
・九州サテライト・ラボの開設
・SiC欠陥解析装置の開発と完成
・ペロブスカイト型など次世代型太陽電池の量産フェーズに向けた検査装置の開発
・半導体テスターのオンサイト保守サービス体制の強化
・GIGAスクール構想第2期を見据えた修理・保守体制の整備
・半導体ウェハ―加工サービスの安定的な拡大に向けた情報発信と加工提携先との連携強化
・東海地方での修理・保守サービス拠点の設立
社内活動
・DX化の推進
・SDGsの実践として地域貢献活動をさらに一歩進める取組み
以上の施策を具体的に実行し、社会に貢献してまいります。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
2025年1月吉日
五十嵐 靖行