#2 Pも、LPも、あるんだよ
「活きのいい窒化膜は入っているかい」
お客様からそのような問い合わせをいただいたとき、最初に発すべき応答は110番のオペレーターよろしく「P(プラズマ)ですか、LPですか」となります。それほどこの二つの窒化膜は需要が拮抗しており、単なる“窒化膜”だけではどちらかを特定することができません。今日はこの二つの『窒化膜(ちっかまく)』の違いについて考えてみたいと思います。
窒化膜は正しくは『シリコン窒化膜』もしくは『窒化ケイ素』または『シリコンナイトライド』(SiN)と呼ばれ、主に保護膜や酸化膜をエッチングする際のストップ層として用いることが多いです。成膜方法はP(プラズマ)によるCVD法とLP(Low Pressure/減圧)のCVD法の2択(ALDは含まない)となります。プラズマCVDは、シランガス(SiH4)とアンモニアガス(NH3)をプラズマエネルギーで反応させてシリコン窒化膜(Si3N4)と水素(H2)を生成しシリコンウェハー上に堆積させます。LP(減圧)CVDはもっと複雑でジクロロシランガス(SiH2Cl2)とアンモニアガス(NH3)に更に窒素ガス(N2)を加えながら熱反応で分解と再構築を促し、シリコン窒化膜(Si3N4)と塩酸(HCl)と水素(H2)を生成します。
P(プラズマ)CVD製法 SiH4+NH3 → Si3N4+(H2)+(N2)
LP(減圧)CVD製法 3SiH2Cl2+4HN3 → Si3N4+6HCl+6H2
と、まあいろいろ言いましたが実際にこれらの反応式を披露する機会はびっくりするほど乏しく、膜種を選択するうえではほとんど役に立ちません。

高温処理がLP-SiN、低温処理がP-SiN
半導体の設計は成膜温度条件との闘いでもあり、二つの窒化膜の違いは詰まるところこれに尽きます。LP-SiNの成膜温度は700~800℃なのに対し、P-SiNは300~400℃と2倍程度の差があります。シリコンウェハーの融点は1420℃なので1層だけベタ膜で成膜する上ではあまり関係ありませんが、例えば融点の低い金属膜上に成膜する際は、おのずとP-SiN一択となります。

薄膜がLP-SiN、厚膜がP-SiN
膜種の選択よりも先に膜厚が決まっている場合は、その膜厚からP-SiNかLP-SiNかを推測することができます。P-SiNが数百Å~数μmまで幅広く成膜できるのに対しLP-SiNは数十Å~最大で4000Åくらいまでしか成膜できません。したがってお客様のリクエストが『窒化膜1μm』であれば消去法でP-SiNを選択することになります。
ちなみにLP-SiNを4000Å以上成膜すると。。口にするのも憚られる恐ろしいことが起こります。

形状重視ならLP-SiN、特性重視ならP-SiN
LP-SiNは微細なエッチング後の側壁にも均一に成膜することができます。対してP-SiNは全体をしっかり覆って遺憾なく自身の持つ特性を発揮することができます。容姿か性格か、人類が抱える最大のテーマですね。

他にも膜の緻密さや応力、バッチ式処理と枚葉式処理等、もしかしたら共通部分の方が少ないのでは、と思うほど様々な違いがありますが、もし冒頭のお客様から口頭で「P-SiNとLP-SiNの違いとは」と質問されたときは「P-SiNが片面成膜、LP-SiNが両面成膜っス」と回答しておけば8割方解決です。
少し半導体の世界のことを好きになっていただけましたでしょうか。